百年の伝統を受け継ぐ新しい家[GUH]

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沢渡川緑地に隣接した住宅地に建つG様のお宅は、築100年を越す3階建ての蔵を持つ、当時としてはとてもモダンな住宅でした。が、残念ながら、2011年3月の東日本大震災で大きく被災したため、建物全体を改築することとなりました。

「家族とともに歴史を刻んできた家の材料を、なるべく多く次の100年に引き継いでいきたい」。
これが、改築にあたってのG様の強いご希望でした。
築100年のお宅は、太い梁や赴きのある建具など、魅力的な古材・古道具の宝庫です。それらの部材を最大限に活用できるよう工夫をこらしました。

蔵の最上階に使われていた梁は、リビング天井の高い位置に通しました。同じリビングの真ん中に配置された赴きある和箪笥とともに、独特の存在感を放ち、空間を引き締めています。
ちなみにこの和箪笥は、住宅の改築工事の完了に合わせて、G様自らが洗いにかけ、修理を手掛けられたものです。

以前、玄関前に敷かれていた畳1帖を超える大きな自然石は、床板(とこいた)として活用。また、床の間や棚板に使われていた欅の一枚板は、寝室の飾り棚や手洗いのカウンターに。庭で見つけたフランス製のアンティークガラスは、リビングの明かり採りとして再利用。
そして、蠅帳(はいちょう)に使われていた鳥の切り抜きの化粧板は、いつも仲のよいG様ご夫妻の象徴として、2羽向き合うかたちでキッチンの窓に配しました。

こうして、新しくなった家のあちらこちらに、歴史の継承が実現しました。

古い材料を再利用することのほかに、もうひとつ、改築にあたってG様が望まれたことは、「暗くて明るいリビング」でした。
ほの明るい、いやむしろ「ほの暗い」くらいの落ち着いた空間でありながら、明るさを感じられるようにしたいというものでした。
一般的に採光を考えるとき、「できる限り陽光を室内に採り入れることが、是」と考えがちですが、どのような明るさを心地よく感じるかは、人によって異なります。
おそらくG様は、それまでずっと慣れ親しんできた築100年の住宅が持っていた環境を、できる限り新しい住宅にも再現したいと思われたのでしょう。

G様のご希望に沿うよう、室内への採光は以前の建物と近いものになるよう抑えめにし、また、外壁には黒を用い、内部にはふんだんに木材を使って、外観・内部ともに、新築特有の光沢感が極力おさえるよう配慮しました。

G様のお宅の敷地は、道路から一段高い場所にあり、その向こう側には林が広がっています。外からの視線がまったく気にならない立地のため、G様のお宅の窓にはカーテンがいっさい設置してありません。光を抑えた空間に広がる、静かで落ち着いた開放感は、なんとも豊かで贅沢なものです。G様とお話し合いを重ねながら、大人が真にくつろぐことのできる住宅を、ご提供することができたかなと思っています。

敷地の鬼門方向には、先祖代々受け継がれてきた「鬼門様」を納める特製の木箱を設置しました。睨みを利かせた鬼門様が、この先もずっとG様のお宅の安全を守っていきます。
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建設地 茨城県水戸市
構造 木造 平屋建て
敷地面積 1077.80㎡
延床面積 144.03㎡
竣工 2012年12月
業務内容 改築設計監理
担当 友常奈津子