雑木林に囲まれて、西海岸流ホームパーティー [KBH]

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水戸市で美容室チェーンを営むK様のご自宅です。
2003年に新築したあと、2009年に娘さん世帯用に増築をしました。

K様は、私が独立した直後から目にかけてくださっている人で、いちばん最初にお仕事をいただいたクライアントでもあります。
そもそも私の会社は、今から9年前、水戸事務所を立ち上げる時にK様の事務所の一角に机をひとつ置かせてもらったところから始まりました。まあ、本当にいろいろとお世話になっている方です。

このKBHは、計画の途中で5年ほど延期になったので、最初に竣工した建物とはなりませんでしたが、何しろ独立して最初の提案でしたから、今でも深く印象に残っています。

初めは、ご家族3人の住まい+小さな美容室ということで計画しました。
そのうちだんだん家族構成が変化していって、おじい様(K様のお父様)が一緒に住むようになったり、その後娘さんが戻ってこられて、所帯を持たれたり。
娘さん夫婦に、お子さんが生まれたのを機に2009年に増築をしました。

雑木林と傾斜地をそのまま活かした家づくり もともとK様は、アメリカのロサンゼルスで修行をされた方で、西海岸流のホームパーティーが大好きな方。
家についても、自然に外につながっていく、広がっていくような建物を要望されていました。

ちょうど敷地が、深い雑木林に囲まれた傾斜地だったので、せっかくある大きな木や土地の起伏はなるべくいじらず、そのまま活かす計画としました。

入り口は土地の高いほうにあります。入口側から見ると平屋の建物ですが、建物の奥に進むと、途中から下に階が追加されて2階建てになる、という造りです。
外観も、あまり派手なことはやらずに、まわりの景観に美しくなじむことを第一に考えました。
今はだいぶ開発が進んできましたけれど、当時は本当に深い雑木林のなかだったので、屋根に落ちた葉っぱで樋(とい)がすぐにつまってしまうんですね。だから樋はつけられない。屋根は必然的にこういう形になり、建物の形も自然と決まりました。

来客が多いお宅なので、門扉とバーベキューの炉には、ちょっとユニークな、アーティスティックな細工を施しています。
私の知人で、茨城県出身のアーティストに頼んで、門扉の石に模様を刻んでもらいました。
また、バーベキューの炉には、耐火煉瓦の上にモルタルを塗って、そこの表面に石を埋めてもらって。もてなし好きのK様の感性に合う、個性的な門扉と炉になりました。

施主からの多彩なアイデアに応えて K様は、ちょっと普通の人と感性が違うというか、すごく独特な考えを持っている方なんです。
家についても、ああしたい、こうしたいというアイデアがいっぱいあって。
ギャラリーがほしいとか、内部にコンクリート打ち放しの部屋がほしいとか、お風呂からあがってくつろげるサンルームがほしい、仕事ができるロフトがほしい、そしてプールがほしい、など、注文がいろいろと出てくる(笑)。
建築家としては手ごわい相手です。設計を決めるまでには本当に時間がかかりました。長かった(笑)。
さすがにプールまでは実現しませんでしたが、そのほかのご要望についてはすべて実現しました。

KBHの内部は、部屋数はそれほど多くなくて、メインのLDKのほかには、寝室と客間をかねた店舗、その下にゲストルームがあります。
玄関の扉をあけると、いきなりLDKにつながるようになっていて、よくアメリカのTVドラマ、「奥さまは魔女」とかで、玄関のドアをはいるといきなりリビングっていうシーンがありますよね、まさにああいう感じで。
手前側にはK様ご希望のギャラリースペースを設け、季節ごとのディスプレイができるようになっています。

コンクリート打ち放しの内壁のある部屋は、下の階に設けたゲストルームで実現しました。
ですから、K様邸は、木造とコンクリート造の混構造になっています。住居では珍しい構造ですね。建築当時は可能でしたが、今は法律が変わったので、やれなくはないけれど、やるのはとても大変だと思います。

増築によって生まれた「共用ダイニングスペース」 娘さん世帯用の増築をしたのは2009年です。
それまで庭として使っていたところに計画しました。
スペース的にもかなり限られていたし、形状的にも「親子」しかないという感じで、あまり悩むことはなく外観は決まりました。

2世帯を結ぶ渡り廊下を共通の玄関にして、玄関を入ってすぐのスペースを2世帯共用のダイニングとしました。
親世帯と子世帯をつなぐスペースをみんなでうまく使えるようにすれば、増築計画がもっともうまくいくと考えたんです。

というのも、K様ご一家は、皆さん美容関係の仕事に就かれているので、時間帯がかなり不規則なんですね。とくに娘さんは結婚式の着付けをやられているので、朝がすごく早かったりする。
なので、朝食はそれぞれの世帯ですませるのが都合がいい。親世帯のキッチンLDKはそのまま残してあり、子世帯にも小さめのキッチンはつくってありますから。
でも、夕食は家族みんなでそろって食べましょう、と。
増築してからはずっと、夕食は皆さんそろってこの共用ダイニングで楽しく食べていらっしゃるようです。

この共用ダイニングの内装は、K様が私にまかせてくれたので、他の部屋とちょっと雰囲気を変えて、天井に板を張りました。親世帯のほうは、壁と天井は白になっているので、この部屋に入ると、少しそれまでと雰囲気が変わります。家族で全員で楽しむ場をより印象づけるよう工夫しました。
ダイニングの一角には、K様お気に入りの作家の壺を飾るスペースも設け、専用の照明を当て鮮やかに浮かびあがらせています。

玄関を通って、屋外のパーティースペースへと誘う 新しくしつらえた共用玄関は、デッキへと通り抜けできるようにしました。
客人は、一度玄関を入り、そこから外のデッキに出て、傾斜をくだって、下のパーティースペースへと進みます。
家の中に上がってはいないのだけれど、一度玄関の中に入るので、室内に招き入れられている感覚でもてなすことができます。

K様邸では、今も大小のホームパーティーが催されています。
アメリカ時代のお友達も遊びにいらっしゃることがあるようですが、皆さん、この家をとても褒めてくれるそうです。

私にとっての、最初の提案。思い出深いこの建物は、K様にとってもきっと自慢の邸宅になっているのではないかな──そう願っています。
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建設地 茨城県水戸市
構造 木造一部RC造 地上1階・地下1階
敷地面積 766.21㎡
延床面積 281.04㎡
竣工 2009年10月
業務内容 増築設計監理
担当 佐藤昌樹 友常奈津子