田園風景を引き継ぐ家[AOH]

 茨城県南部の自然豊かな地域に建つ木造2階建ての新築住宅です。古くからこの地にお住まいのご家族が、地域に戻る子世帯の住居を敷地内に構えたいとのご要望で家づくりを始められました。今回は、水戸市とつくば市にある家具屋さん「頑固おやじ」さん主催の家づくりコンペに参加しました。敷地に立ってみると、これしかない!と思えるような基本プランが思い浮かび、打ち合わせにてご提案したところ、気に入っていただき、エイプラス・デザインを選んでいただくことが頂きました。

計画地の状況やお客様のご要望は以下のようなものでした。
 ・敷地は長屋門、しっくい壁の蔵、瓦屋根の純和風建築が立ち並ぶ地域である。
 ・純和風木造平屋建ての既存母屋の北側に新宅を設ける。
 ・母屋との行き来をしやすい動線がいい。
 ・計画地の北側は、一面に田園風景が広がっている。
 ・家を建てるために買い揃えていたお気に入りの家具を置きたい。

蔵をモチーフとした外観

 この地に建つ建物としてふさわしい外観はなんだろうと、実際に敷地を歩きながら考えて決定していきました。この場所は農業が盛んな地域で、周囲には伝統的な木造建築が並んでいました。計画地は既存の母屋の北側となり、お互いの距離は4.5mと近接した位置関係です。敷地の東側は竹林が広がり、また西側は農機具庫で視界が閉じられていますが、北側は大きく開かれており一面に水田が広がっていました。日本の原風景が残るこの場所には、まったく新しいデザインの建物ではなく、まるでこの地に今までも建っていたかのように地域になじむ風情のある外観とし、地域の景観を守っていくようなデザインが良いと考えました。そこで、母屋の付属建築である蔵を現代風にアレンジする外観とし、親世帯や周辺地域と一体感が生まれるようなデザインとしました。はじめてお会いした時に、A様には周囲のような従来的な日本家屋にこだわらなくて良いと言われていましたが、昔ながらの日本家屋ではなく、このような新たな日本家屋のデザインをご提案しましたところ、A様にも気に入っていただけました。材料には、親水性のある外壁材を使用するなど、現代的でメンテナンスに手のかからないものを使用しています。周辺環境になじみ母屋に寄り添うように建つ外観はA様にも満足していただけました。

風景を贅沢に楽しむ2階リビング

 この敷地のあらゆる条件を快適なお住まいへと導く方法として、2階リビングのプランを採用したところ、気に入っていただくことができ、周囲の景色を存分に楽しめる最高のリビングが出来上がりました。
 まず2階リビングの北側には、一面に広がる田園風景を切り取る大開口を設けました。実は、風景を楽しむ窓を北向きに設けるのはとても良いことです。北を向いているということは、南からの太陽光に照らされている面を見るということになりますので、影となっている面が無く、また、逆光にもならないため、太陽に照らされて美しく輝き、かつ落ち着いた田園風景を眺めることが出来ます。私も工事中の現場に通う度に、1日中眺めていたくなるような絶景に惚れ惚れしていました。一般的に1階に風景を楽しむ窓を設ける場合、周辺地域の人々の目が気になり、カーテンなどで閉じっぱなしになりがちですが、2階にリビングを設けることで、田んぼや畑で働く方とも視線が合う心配もなく、まるで景色を独り占めしているかのような贅沢な空間となりました。
  南側に平屋の母屋が近接するため、新宅の1階には太陽光が入りにくい位置関係となっていますが、リビングを母屋の屋根より高い2階に設けることにより、南側からの採光を十分に得ることができます。南側の窓からは母屋のおおらかな甍を眺めることができ、これもまた美しいです。また、新宅の1階リビングと、平屋の母屋の居間、それらの位置関係に高低差を設けることによって、お互いの生活を感じることはできるが、視線が交差することは無い、プライバシーをほどよく保った生活を送ることが出来ます。2階の南面はなるべく窓を設け、吹き抜けを介した1階廊下まで太陽光を取り入れました。
  2階の東側には、リビングとフラットに続く和室を配置しています。和室には東側に広がる竹林を切り取る窓を設けることで、風に吹かれてサワサワとゆらめく竹の葉が、風情のある和室を演出してくれました。 周辺のロケーションの様々な表情を見ることができ、周辺環境との程よい距離感を保った魅力的なリビングを作ることが出来ました。

家具を引き立てる内装設計

 設計を進めていく過程の打合せで、ブラックウォールナットを主材としたチェスト、ダイニングテーブル、オーダーメイドのキッチンや、ペレットストーブなど、家を建てる時のためにと、家具を数年にわたり買いためているというお話があり、それらの家具を引き立てるように内装の設計を行いました。
打合せが進む中で、来客時には玄関で接客を行いたいとのご要望を頂きました。2階にリビングがあるため、1階の廊下にも普段使いもできる給湯スペースを設け、購入予定のペレットストーブを玄関に設置することをご提案しました。一般的にペレットストーブは、リビングの窓際の一角に配置し部屋を暖めるものですが、2階への吹き抜けのある玄関にペレットストーブを設けることで、寝室がある1階を含めた家全体を暖めることが出来ます。玄関の内装材は厳格な外観のイメージを引き継ぐため、暗めの色調で高級感のある材料で統一し、ペレットストーブの炎と共に来客を出迎えることができる趣のある空間となっています。
一方で、階段で2階に上がると雰囲気が一転し、木を多用した明るい空間が広がるようなメリハリのある内装計画を行いました。天井は屋根の傾きに沿って材料を張る勾配天井とし、高い天井がリビングをおおらかにしています。2階にはオーダーメイドのブラックウォールナット製のキッチンが設置されるので、キッチンを引き立たせるように白味のフローリング材やヒノキの天井材を選択しました。家具と共に自然素材をふんだんに使用された、木の香りが溢れるリビングとなっています。照明器具は、間接照明で天井面を照らす計画とし、なるべく天井面に器具を露出させませんでした。そうすることで、リビングの端から端まで丁寧に張られたヒノキの天井が美しく並ぶ姿を見ることができます。
 北側の田園風景を楽しむ窓は、窓の下枠の高さがダイニングテーブルの高さとピッタリと揃うように設計し、食卓の席に着くと、テーブルが風景と繋がっているような感覚になります。晴れの日には筑波山を見ることができる素晴らしい景色を眺め、四季の移り変わりを感じながら日々の生活を送ることが出来る最高の住空間を作ることができました。

こうしてA様の夢を叶える家が完成しました。土地の特性やお気に入りの家具を最大限に活かすプランでお応えすることができたのではないかなと、私自身とてもうれしいです。A様ご夫婦のお父様にも大変気に入っていただき、「せっかくこんな良い家を作ったのだから皆に見せないともったいない!」とA様邸に影をかけていた木の枝を落としてくれました。このような素晴らしい家を完成させることができ、A様ご家族御一同や協力業者の方々に大変感謝しております。


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建設地 茨城県南部
構造 木造 2階建て
敷地面積
延床面積 109.96㎡
竣工 2018年7月
業務内容
担当 佐藤、小堤