水戸市に建つ、50代のYさまご夫妻とお父様の3人が住む、大人のための平屋の2世帯住宅です。
設計にあたってYさまご夫妻から出されたご希望は次のようなものでした。
- 1.各部屋の温度と湿度がほぼ一定となるようにしたい
- 2.本をたくさん収用できるスペースをつくりたい
- 3.太陽光パネルをできる限り多く屋根に載せたい
床暖房で冬でも家全体をほんのり暖かく
以前の家は昔ながらの農家住宅で、しかも被災して少し隙間があいてしまったこともあって、とにかく寒かったとのこと。
なので、新しい家は、「寒くない環境」にしたいというのがご夫妻のいちばんのご希望で、お父様のことやご自分たちのこれからを考え、部屋はもちろんのこと、部屋以外の廊下やトイレについても、冬の温度がある程度一定に保たれることが望ましいということ。
冬の室温を一定に保つには、床暖房がいちばんです。玄関とゲストルーム以外にはすべて床暖房を入れて、暖房器具をつけなくても、肌に触れる部分がほんのり暖かく感じられる環境を保てるようにしました。
実際に住まわれてからの感想を伺ったところ、床暖房を一日中いちばん低い温度で入れているだけで、真冬の朝でも「寒い」と縮こまるようなことがなくなり、ちょっと暖房を付けるだけですぐに、動くと汗ばむくらいに暖まるとのことでした。
気になる電気代も、以前の電気とガスで部分的に暖房していたころとほぼ同じくらいで、家全体が適度に暖かくなるこの快適さを考えるとお釣りがくるくらい、と喜んでいらっしゃいました。大きな開口、欄間窓、ドイツ漆喰で夏も快適
一方で、夏は以前の家が風通しがよく快適だったので、新しい家でも同様に「夏場は風が抜ける家」にしたいということでした。
そこで、まずは家の相応しい場所に大きな開口をつくる計画から始めました。
敷地の東側にずーっと遠くまで見渡せる田圃が広がっているのですが、以前の家ではリビングからその景色を見ることができなかったそうで、新しい家では、この田園の豊かな風景をLDKから皆でゆったり眺めることができるよう南側に大きな開口をつくり、さらに、東側にある庭と蔵も眺められるように東側にも十分な開口を設けました。
そして、その開口窓の上に「欄間窓」をつくりました。
欄間窓は、以前の家でも風通しにとても役だっていたそうで、新しい家でもぜひ設置してほしいというのがご夫妻のご希望でした。
新しい家でも空気の調整に活躍するほか、夜間には月の動きが観察できたり、飛行機が飛ぶ様子が見えたりと、外の気配を伝える役目を果たし、それがとても心地よいとのご感想でした。
さらに、ご夫妻の希望で、壁と天井の素材にもこだわりました。
もともとビニールクロスなどは使いたくないというご希望でしたので、玄関とお父様の部屋には土佐和紙を、ほかの部屋にはドイツ漆喰を用いました。
土佐和紙は、手漉きのものは値が張りますが、機械漉きのものだとクロスより少し高めくらいで使用することができます。ドイツ漆喰は、日本の漆喰と塗り方が少し違うくらいで成分的にはほぼ同じもので、壁と天井を塗るとけっこうコストがかかりますが、それでも今回は業者の方が抑え目の価格で引き受けてくれたため、実現することができました。
とくに漆喰は、湿気がある時は水分を吸って、乾燥時には水分を吐き出す機能があり、以前の家に比べて、空気の状態は格段に快適な状態に保てるようになったと思います。
ご主人の夢の本棚・働く主婦の味方のサンルーム
Yさんご夫妻はおふたりとも教師をされているため、たくさんの蔵書をお持ちです。
とくにご主人の本が多く、奥さまは新築を機会になるべく整理しては?と言われていましたが、ご主人にとっては、お持ちの本をずらっと美しく並べることが長年の夢だったようです。
そこで、ご夫妻の寝室からクローゼットに抜ける長さ7mの通路の両側に、壁一面の本棚を設置しました。
これだけあればお2人の豊富な蔵書もすっぽり収めることができます。
もちろん、大きな地震が起きたとしても、寝ている側には決して倒れてこない向きで設置しています。
一方、奥さまの趣味のお部屋として、ご自身で音楽を楽しまれたりする趣味室を玄関をはいってすぐの場所に確保しました。
また、建物の北西には、せり出すような形でサンルームを兼ねた4.5帖の洗面・脱衣室をつくりました。南と西に大きな吐き出し窓を設けたことで、一日中陽が差し込み、雨の心配することなく洗濯物をたくさん干すことができ、仕事を持つ奥さまの強い味方となっています。
合計10キロの太陽光パネルを屋根に!
3番目のご希望の「太陽光パネルをできる限りたくさん屋根に載せたい」
これは、Yさまご夫妻が蓄電や売電をたくさんしたいということではありません。
ご主人が長年物理を専門とする先生でいらっしゃったので、ご自分の実験材料としてできるだけ多くのソーラーパネルを載せて、いろいろと統計を取りたいということでした。
できれば屋根全体に、というのが当初のご主人のご希望だったのですが、それはあまりにも費用がかかるし、重量も相当重くなってしまうため、奥さまと一緒にご主人を説得し、通常の住宅では4キロくらいのところを、合計で約10キロ分載せることになりました。
外観の屋根の向きや形がやや複雑になっているのは、パネルを効率的な向きにたくさん載せられるようにしたためです。
以前の家と新居をつなぐもの
今回新しく建てたYさんのお宅では、以前の家にあった素材やその面影を残すものをたくさん利用しています。
まずは、LDKとお父様の部屋で存在感を発揮している梁。
長さの関係もあり、いちばん太いものはお父様の部屋に3本いれて、リビングには長さが確保できるものを3本使いました。
何本かの梁には、なんと碍子(がいし)という、昔電線を支柱に絶縁固定するため使われた陶磁器製の器具も付いています。
これは、担当した大工さんが機転をきかせて、使用しなかった梁から移植してくれたものです。
LDKやお父様の部屋で、なんともいえない味わいのあるアクセントとなっています。
30センチ角もある立派な大黒柱は、上部は残念ながら梁などがかかっていたため再利用できませんでしたが、下部の1.8メートルくらいが使える部分として残り、これは4等分して椅子に作りかえました。
以前の家はお父様自身が建てた家だったので、梁や柱などの形をよく記憶にとどめていらっしゃいます。
そういったものをうまく再利用することで、新しい家に対する愛着、つながりといったものが自然に生まれるようになります。
今回は担当した大工職人さんが、そういったリメイクを自身でも楽しみながら取り組んでくれる人だったため、とてもスムーズに実現することができました。
家と人をつなぐ思い
家の外にも以前の家の素材をいくつか再利用しています。
ポーチ中央の壁には、前の家の戸袋に細工されていた抽象的なデザインをそのまま採用しました。
家を解体しているときにたまたま私が見つけたのですが、わざわざ戸袋にデザインするということは、お父様のお父様あたりがこだわって職人につけさせたものかもしれない──そんなロマンを私自身も抱きながら、玄関に展開しました。
ご主人のお姉様が完成した新居を訪ねていらしたとき、玄関に立つなり、「あ、このデザイン、前の家の戸袋にありましたね」と気づいてくださり、ここでも以前の家と新しい家を上手くつなぐことができたように思いました。
玄関アプローチには、今後の生活を考慮し、ゆったりとしたスロープを設置しています。
特徴ある模様は、以前の家で使われていた瓦をカットしてセメントに縦に埋め込んだものです。思いがけずよい表情になり、かつ滑り止めとしての効果も発揮しています。
セメント自体にも少しだけ砂利を混ぜ込みニュアンスを出しているのですが、これもじつは職人さんのアイデア。「ただのセメントでは面白味がないから」と提案を受け、採用しました。
Yさまご夫妻は、いつでも予習・復習を欠かさずに打ち合わせに臨んでくださり、建築の専門家である私が教えていただいたことも一度や二度ではありませんでした。
職人さんたちとのコミュニケーションの取り方も見事で、ご夫妻、職人さんたち、そしてエイプラス・デザインの三者が一体となって、本当に楽しい家づくりができました。
忘れがたい体験をいくつも重ねることができ、Yさまご夫妻に深く感謝しています。
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建設地 | 茨城県水戸市 |
構造 | W造 1階建て |
敷地面積 | 1066.71㎡ |
延床面積 | 147㎡ |
竣工 | 2015年11月 |
業務内容 | 新築工事監理 |
担当 | 友常奈津子 |